腸内細菌でクスリの吸収が変わる?

パーキンソン病は中脳黒質のドパミン神経細胞が変性・脱落することにより動作緩慢,筋強剛,静止時振戦,姿勢反射障害などの症状を呈する神経変性疾患です。

ドパミン前駆物質である Lドパ の使用が薬物療法の中心となっていますが,長期間の治療に伴い,

①症状の日内変動(ウェアリング・オフ現象)

②Lドパ誘発性不随意運動(ジスキネジア)

などの運動合併症がみられるようになります.

経口投与されたL―ドパは空腸上部で大型中性アミノ酸トランスポーターを介して吸収されますが,

①胃内pH

②胃内容排出時間

③食物に含まれるタンパク質

などにより影響を受けるため吸収は不安定で,Lドパの血中濃度の個体内差,個体間差が大きいです。

臨床ではLドパの吸収改善を目的として消化管運動改善薬やレモン水 などが用いられていますが,最近,パーキンソン病と腸内細菌の関係が報告されています。

small intestinal bacterial overgrowth(SIBO:シーボ)は便秘,下痢,腹部膨満感などの消化器症状を呈する小腸内細菌異常増殖 であり,小腸吸引液1 ml中,細菌が105を超えて存在している状態です。

報告ではパーキンソン病 患者では健常者群に比べSIBO保有率が有意に高く,また,SIBO(+)パーキンソン病患者はSIBO(-)パーキンソン病患者患者に比べ,症状のオフ時間が長く,Lドパの 吸収遅延(delayed-on)の割合が多かったです。

SIBOに対する難吸収性のリファマイシン系経口抗菌薬 であるリファキシミンを用いた除菌療法により,Lドパ血中薬物動態に影響を及ぼすことなく,運動合併症の改善を認めましたが,6カ月後におけるSIBO再発率は43%でした。

今まで,腸管での薬物吸収過程において「腸内細菌の役割」はほとんど考慮されていませんでした。

今後,腸内細菌叢 の個体間差が薬物の血中濃度および効果の個体間差に影響を及ぼしているかを明らかにする必要があります。

1)Fasano A, et al : The role of small intestinal bacterial overgrowth in Parkinson’s disease. Mov Disord 28 : 1241―1249, 2013.日本内科学会雑誌 104 巻 1 号

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